冬の入浴時に浴室が極端に寒く感じると、快適さが損なわれるだけでなく、健康リスクも高まります。特に高齢者にとっては、急激な温度差によって血圧が変動し、ヒートショックの原因となる恐れがあります。
ヒートショックを防ぐためには、浴室の断熱性能を見直すことが重要です。断熱性能が低下する原因には、窓や床の構造、換気システムの影響などが挙げられますが、それぞれに対して効果的な対処法があります。
この記事では、手軽に実践できる寒さ対策と、断熱性能を高める浴室リフォームの方法を紹介します。
1.浴室の断熱性能を高める必要性
浴室の断熱性を高める必要があるのは、ヒートショックが起きる可能性を減らすためです。
冬場の浴室は、リビングや寝室に比べて著しく冷え込むことが多く、身体に強い負担を与えます。特に注意が必要なのが、温かい部屋から寒い脱衣所や浴室へ移動する際に生じる急激な温度差です。このとき血管が収縮して血圧が上昇し、さらに浴槽に入って体が急激に温まると血管が拡張して血圧が急降下します。
結果、心筋梗塞や脳卒中が起こるヒートショックが発生するため、断熱性能が低い浴室は危険です。
また、寒さを感じる浴室では湯温を高く設定したり、長湯をしたりしがちです。しかし、42度以上のお湯に10分以上つかると、体温は38度まで上がり、ヒートショックの危険が増します。加えて、湯温を高くすると余分な光熱費がかかる点もデメリットです。
浴室の断熱性能を高めることで、室内の温度差を小さくし、ヒートショックを予防できます。
加えて、断熱性の向上により湯温が下がりにくくなり、追い焚きや給湯の回数を減らせるため、光熱費の節約にもつながります。健康面と経済面の両方で効果が期待できるので、浴室の断熱対策が大切です。
2.浴室の断熱性能が低くなる原因
浴室の断熱性能が十分に確保されていない場合、室内の熱が外に逃げやすくなり、結果として寒い浴室が生まれます。
浴室の断熱性能が低くなる原因は、さまざまです。以下では、代表的な断熱性能が低くなる原因を解説します。
2-1.在来浴室(造作浴室)である
断熱性能が低い浴室の代表例が、在来浴室と呼ばれる造作風呂です。
在来浴室とはユニットバスが普及する前に一般的だった在来風呂で、現場でブロックやコンクリートを使って浴室をいちから造り上げる構造です。在来浴室の多くは天井が高く、床・壁・天井に断熱材がほとんど使用されていません。さらに、タイル仕上げの床や壁は熱がたまりにくいため、空間が暖まりにくくなります。
また、換気性能を上げるために大きめの窓が浴室に設置されていることも多く、外気が入り込んで断熱性をさらに低下させます。
2-2.配管・配線の隙間が多い
浴室まわりには給水・給湯・排水・電気など、多くの配管や配線が通っています。配管や配線が壁や床を貫通する部分には、本来であれば気密性を保つための処理が必要です。
しかし、施工時に隙間が残されていたり、経年劣化によってパッキンなどが劣化していたりすると、そこから冷たい外気が室内に流れ込み、断熱性能を低下させます。数mmの隙間であっても、窓を常に開けている状態と同じように浴室の断熱効果が著しく損なわれます。
2-3.窓の断熱性能が低い
窓は、住宅の中でも熱が最も逃げやすい場所と言われる部分です。特に浴室に設けられた窓が単板ガラスであったり、サッシがアルミ製であったりする場合、外気の影響を受けやすく、室内の熱が急速に奪われます。冬季には窓の内側に冷気が伝わり、ガラスの近くに立つだけで寒さを感じることもあります。
また、サッシのすき間から外気が入り込むと、温まった空気が外へ逃げていくため、室温が一定に保たれません。近年は断熱性能の高い複層ガラスや樹脂サッシの窓が普及していますが、古い家ではそうした設備が整っていない場合が多く、浴室が冷える要因となっています。
2-4.換気システムの断熱性能が低い
浴室には必ず換気設備が設けられていますが、ここから外気が直接入り込んでしまうことがあります。特に古い換気扇や単純なダクト構造の場合、外気の侵入を防ぐ機構がなく、入浴中に換気扇を回すと冷えた外気が浴室内に流れ込みます。
2003年以降に建てられた住宅では、建築基準法に基づいて24時間換気システムの設置が義務づけられており、浴室にも常時換気が行われるようになりました。清潔な空気環境を保つ上で有効な仕組みではあるものの、断熱対策が不十分な浴室では寒さを助長する一因になります。
2-5.床の保温性が低い
床が冷たいと、浴室内の空気が暖かくても体感温度は低く感じられます。特にタイル素材の床は、表面が硬くて熱伝導率が低いため、足裏から熱を奪われるような感覚になります。長時間入浴しても、床から伝わる冷たさによって体がすぐに冷えてしまい、入浴の効果を十分に得られません。
また、床の下部に断熱材が入っていない場合や、基礎と床の間にある「人通口」が塞がれていない場合には、床下から冷気が浴室内に上がってきます。こうした設計では浴槽自体にも断熱材が十分に使われていないことが多く、寒い浴室が生まれます。
3.自分で簡単にできる浴室が寒いときの対策
浴室の寒さは、リフォームをしなくてもある程度緩和することが可能です。身近な素材や市販品を活用したり、入浴の前後にひと工夫加えるだけでも体感温度は変わってきます。ここでは、自分でできる寒さ対策を紹介します。
3-1.窓に断熱シートやプラダンを取り付ける
浴室に窓がある場合、そこから冷気が入り込み、暖かい空気が逃げてしまうことが寒さの原因となります。断熱シートを貼れば、窓からの熱の出入りを抑えることができます。市販の断熱シートはホームセンターや通販で手軽に入手でき、窓のサイズに合わせてカットするだけで取り付け可能です。
また、プラスチック段ボール(プラダン)を窓枠にはめ込む方法も有効です。プラダンは軽量かつ安価で、遮熱・断熱効果があり、繰り返し使用できます。ほかにも防水性のあるシャワーカーテンを窓の前に吊るすことで、結露防止と断熱の両方を狙うことも可能です。
3-2.浴室内の床や壁に熱めのシャワーをかける
入浴前に熱めのシャワーを床や壁にかけるだけでも、浴室内の温度を上げる効果があります。特にタイル張りの床や壁は冷えやすく、足元や体が触れると強い冷感を覚えやすいため、あらかじめ温めておくことが有効です。
短時間のシャワーでも、冷えた素材が温まり、室内の空気もやわらかく感じられます。裸になる前の一手間として実施することで、体温の急激な変化を防ぎ、ヒートショック対策にもつながります。ただし、床が滑りやすくなるため、足元の安全には注意してください。
3-3.入浴前に浴槽のふたを開けておく
浴槽にお湯を張った後、入浴の直前にふたを開けておくと、お湯の蒸気が浴室内に広がり、空気を温めることができます。特に気温が低い冬場には、蒸気による自然な加湿と暖房効果が得られるため、浴室全体が冷えにくくなります。
ただし、お湯の表面を空気にさらすことで冷めやすくなるため、ふたを開けるタイミングには注意が必要です。入浴の直前にふたを外す、またはやや高めの湯温で溜めるなどの工夫で、快適な温度を保てます。蒸気によるカビの発生を防ぐため、入浴後には壁や天井の水分を拭き取るとよいでしょう。
3-4.床にマットやすのこを敷く
冷たい床に直接立つと、浴室内が暖まっていても足元から冷えを感じてしまいます。冷感を軽減する方法として有効なのが、お風呂マットやすのこです。すのこは素材によって断熱効果があり、直接タイルに触れないため体感温度が上がります。
最近では、プラスチック樹脂製のすのこや、滑りにくくカビに強い素材のマットも販売されており、扱いやすさと清潔さを両立できます。
3-5.脱衣所にヒーターを設置する
浴室そのものだけでなく、脱衣所の温度差も寒さの大きな要因になります。入浴前後の冷え込みを防ぐには、脱衣所に小型の電気ヒーターを設置するのが効果的です。短時間で暖められるセラミックヒーターやパネルヒーターなどが適しています。
ヒートショック対策としても、脱衣所と浴室の温度差をなくすことは重要です。ただし、ヒーターの熱源が近すぎると火傷の危険があるため、設置場所には注意してください。また、水場のそばで電源を使用する場合は、感電を防ぐためにも防水ヒーターを選びましょう。
3-6.入浴中は換気を止める
浴室に設置された換気扇や24時間換気口は、外気との空気交換を行っているため、入浴中に稼働させていると暖まった空気が外に逃げて冷えの原因になります。入浴前や入浴中は換気を止め、暖気を保つようにすると快適に過ごせるでしょう。
24時間換気システムがある場合は電源を切らずに、換気口に専用の断熱フィルターを設置することで、外気の侵入を抑えられます。入浴後にはしっかりと換気を行い、湿気によるカビの発生を防ぐことが大切です。用途に応じて換気のタイミングを工夫することがポイントです。
4.浴室が寒いときは断熱リフォームも効果的
浴室の構造そのものに断熱性の課題があるケースでは、一時的な対策では根本的な改善が難しいこともあります。その場合、浴室の断熱リフォームをするのもよい手段です。
以下では、浴室が寒いときの断熱工事の例や、費用相場を解説します。
4-1.窓を交換する
浴室の断熱性能を高める上で、効果的なポイントの1つが窓リフォームです。浴室の窓の断熱対策としては、主に次のようなリフォーム方法が挙げられます。
- 内窓(二重窓)を設置する
- 複層ガラス(ペアガラス)への交換
- 樹脂サッシへの変更
- 窓サイズを小さくする
- サッシごと断熱仕様に交換する(カバー工法含む)
既存の窓の内側に内窓を設ける工事は、比較的簡単で費用も抑えやすく、断熱性・防音性の向上に効果があります。工事は1時間~半日程度で完了し、費用は1か所あたり約4万~10万円が目安です。
複層ガラス(ペアガラス)は密閉された2枚のガラスの間に空気やガスの断熱層を設けたもので、熱伝導を抑える効果があります。窓ガラスだけの交換であれば約3万~5万円、サッシごと交換する場合は10万~30万円程度が相場です。
より高い断熱性を求める場合には、サッシ自体を断熱性能の高い「樹脂サッシ」や「アルミと樹脂の複合サッシ」へ交換する方法が選ばれます。窓全体の気密性が高まり、浴室全体の保温性能が向上します。
サッシ交換には2つの工法があります。1つ目は既存のサッシを撤去して新たに取り付ける方法で、費用は腰高窓で約24万~39万円、掃き出し窓では約49万~60万円が目安です。2つ目は既存のサッシの上に新しい枠を被せる「カバー工法」で、腰高窓で約18万~28万円、掃き出し窓で約36万~43万円が相場です。
4-2.床下や壁に断熱材を追加する
築年数の経過した住宅や、断熱仕様が十分でないユニットバスでは、外気の影響を受けやすく、室温が安定しにくくなります。この場合は、浴室の床下や壁、天井に断熱材を追加施工することで保温効果を高められます。
- 床断熱の追加
- 壁断熱の追加
- 天井断熱の追加
冷気は下から流れ込みやすいため、床下の断熱処理が甘いと足元から寒さを感じやすくなります。床下に断熱材を新たに敷き込む工事は比較的短期間で完了し、費用は1平方メートルあたり約7,000円~が目安です。工期は1日程度で済むことが多く、コストパフォーマンスの高い対策と言えます。
浴室の外壁側の壁に断熱材を追加すれば、外気による熱損失を防ぎ、室温を安定させられます。施工方法には、内側から施工する方法と、外壁側からのアプローチがあります。ユニットバスの交換と同時に実施すれば、効率よく施工が進みます。壁断熱の費用相場は1平方メートルあたり約5,000円からで、工期はおおよそ2~4日程度です。
戸建て住宅で浴室が2階または屋根に近い位置にある場合は、天井からの冷気の影響を受けることがあります。このようなケースでは、天井部分を断熱施工することで冷気の流入を抑えることが可能です。天井断熱の費用は1平方メートルあたり約4,000円からが一般的で、工期は2日から4日程度かかります。
4-3.高断熱浴槽に交換する
高断熱浴槽とは、浴槽の外側を断熱材で覆った構造をもつ浴槽のことで、湯温が下がりにくい特徴があります。
通常の浴槽では、お湯を張った直後から温度が下がりやすく、家族の入浴時間がずれるたびに追い焚きが必要です。しかし、高断熱浴槽であれば湯温を長時間一定に保てるため、追い焚きの回数が減り、結果的に光熱費の節約にもつながります。
高断熱浴槽の導入費用は、通常の浴槽よりも約10万~20万円程度高くなります。ただし、この浴槽は後付けができないため、ユニットバスのリフォーム時にあらかじめ高断熱仕様の浴槽を選ぶ必要があります。既存の浴槽だけを交換することは基本的にできない点に注意が必要です。
既存のユニットバスを高断熱浴槽付きのユニットバスに交換する場合、費用は約100万~150万円程度かかります。
4-4.断熱タイルへと交換する
断熱タイルは、表面が冷えにくく、素足で触れても冷たさを感じにくい断熱機能素材でできており、入浴時の足元の冷感を軽減してくれます。加えて、滑りにくい加工が施されている製品や、クッション性のある素材が使われた製品もあり、安心・安全な入浴環境の構築に役立ちます。
既存の床を剥がして新たに断熱タイルを敷く工事は、大がかりなリフォームに比べて費用も抑えやすく、施工期間も短く済むのが特徴です。費用は1平方メートルあたりおおよそ1万~2万円で、工期は1~2日程度とされています。浴室全体ではなく、洗い場だけに施工することも可能で、部分的な対策としても導入しやすい工法です。
また、タイルではなく断熱性のある塗装材を用いた施工方法もあり、こちらは約5万~20万円程度、1.5~3日ほどで完了します。浴室の床材が傷んでいない場合でも、断熱性能と安全性の向上を目的として床材の交換を検討することは、将来の安心につながります。
4-5.在来風呂からユニットバスに交換する
在来風呂の断熱性能を根本から改善したい場合は、浴室を最新のユニットバス(システムバス)に交換するとよいでしょう。近年のユニットバスは工場で成型されたパネルを組み合わせて設置するため、気密性が高く、断熱材が壁・床・天井に標準で使用されている製品が多くなっています。
在来風呂からユニットバスへのリフォーム費用は、標準的なもので約70万~200万円が相場です。内訳としては、既存浴室の解体に10万~20万円、ユニットバス本体に40万~120万円、設置や電気・配管などの付帯工事に20万~60万円程度が必要になります。浴室を断熱化し、高断熱浴槽を取り入れる、といったフルでのリフォーム工事を行う場合、費用は高くなりやすいでしょう。
工期は1週間から10日程度が一般的です。ただし、狭小住宅などで施工が難しい場合や、浴室の位置変更や増築を伴う場合には、工期が2週間~1か月、費用が100万~250万円ほどかかるケースもあります。
4-6.床暖房を設置する
浴室の寒さ対策として、床暖房を追加するのもよい方法です。湯気が広がる前の一番風呂でも足元が暖かく、ヒートショックの予防にもつながります。
床暖房はユニットバスにも在来風呂にも対応可能です。ユニットバスの場合、浴室の床材に対応した専用オプションとして選択できます。費用はユニットバス本体価格にプラスして約10万~15万円が目安です。施工はユニットバスの設置と同時に行われることが多く、工期は2~3日程度となります。
一方、在来風呂でも床暖房の導入は可能ですが、既存の床を解体してからの施工となるため、費用や工期はやや増加します。費用の目安は15万~25万円程度で、熱源の種類や床材の仕様によって変動します。工期は一般的に2~3日程度ですが、床の状態や施工環境によっては1週間程度かかる場合もあります。
4-7.浴室暖房乾燥機を導入する
浴室暖房乾燥機を導入すれば、浴室内を効率的に暖められるだけでなく、洗濯物の乾燥やカビ対策も同時に可能となります。
浴室暖房乾燥機は、主に「ビルトインタイプ」と「壁掛けタイプ」の2種類があります。ビルトインタイプは天井に埋め込む方式で、新築や浴室全体のリフォーム時に採用されることが多く、機能やデザインの選択肢が豊富です。一方、壁掛けタイプは後付けしやすく、既存のユニットバスや在来浴室にも比較的容易に設置できます。スペースがあれば、後からの取り付けも可能で、照明の位置や点検口の有無などに応じて設置方法を調整できます。
導入費用は選ぶタイプや機能によって異なります。壁掛けタイプは本体と工事費込みで約5万~19万円、ビルトインタイプでは9万~36万円が費用の目安です。
まとめ
浴室の冷えに対しては、断熱シートの活用やシャワーによる予熱、マットの設置といった手軽な対策でも一定の効果が期待できます。
しかし、寒さの根本的な解決を目指すのであれば、窓の断熱強化や高断熱浴槽への交換、ユニットバスへのリフォームなどを検討することが効果的です。リフォームは費用や工期がかかるものの、快適性や光熱費の削減、ヒートショックのリスク軽減につながるため、長期的に見れば大きなメリットがあります。浴室の寒さに悩んでいるのであれば、リフォームも選択肢に含めて、改善方法を考えるとよいでしょう。


