地震が頻発する日本では、住まいの安全性が特に重要視されます。その中でも「耐震構造」は、建物の強度を向上して地震の揺れに耐える設計で、多くの住宅に採用されています。しかし、耐震構造の特徴や、免震構造・制震構造との違いを明確に理解していない方も少なくありません。
当記事では、耐震構造の特徴をはじめ、メリットやデメリットについて詳しく解説します。また、耐震等級や地震に強い家の形状についてのポイントも紹介しているので、家の設計でお悩みの方や購入を検討中の方は、ぜひ最後までご覧ください。
1.耐震構造とは
耐震構造とは、地震による揺れに対し、建物の構造強度を高める設計方法です。柱や梁、壁、基礎部分などの強度を向上し、地震時の倒壊や損壊を防ぐことを目的としています。
ただし、耐震構造は揺れに耐えるのを重視した設計であり、地震の揺れを軽減する「免震構造」や「制震構造」と混同されやすい点に注意が必要です。
1-1.耐震構造と免震構造の違い
耐震構造が建物の強度を高めて地震に耐えるのに対し、免震構造は建物と地面の間に免震装置を設け、揺れを減少させる方法です。
免震構造では、地震の振動が建物に伝わる前に免震装置が揺れを吸収・軽減し、建物への影響を最小限に抑えます。
1-2.耐震構造と制震構造の違い
制震構造は、耐震構造に加え、建物内に制震装置を設置し、揺れを吸収して建物への負荷を軽減する仕組みです。
耐震構造が強度を高めるのに対し、制震構造は揺れそのものを抑制する点で異なります。
2.地震に強い家の特徴とは
地震に強い家を選ぶ際には、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」による耐震等級が重要な指標となります。この法律では、家の耐震性能を「耐震等級」で評価しており、1級~3級の等級ごとに具体的な基準が定められています。
出典:e-GOV 法令検索「住宅の品質確保の促進等に関する法律」
耐震等級は、地震に対する強度や安全性を示すものであり、それぞれの等級の違いは下記の通りです。
耐震等級1級 | 建築基準法の最低基準を満たした耐震性能です。震度6強~7程度の地震に対して建物の倒壊を防ぐことを目的としており、命を守るための基本的な耐震性能を備えています。 |
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耐震等級2級 | 耐震等級1級よりも1.25倍の強度を持つ耐震性能です。学校や病院など、災害時に避難所として使用される建物に適用されることが多く、震度6強~7の地震にも構造的な安定性の維持が期待されます。 |
耐震等級3級 | 最も高い耐震性能で、耐震等級2級の1.5倍の強度を持つ耐震性能です。ただし、建物の損傷が完全に防げるわけではなく、被害を最小限に抑えることが主な目的です。 |
出典:内閣府「住宅の品質確保の促進等に関する法律に係る告示改正関連資料」
また、家の形状も地震に対する強さに影響を与えます。正方形や長方形など、シンプルな四角形の家は、力が均等に分散されやすく、地震に対して強いとされています。
一方で、複雑な形状や突出した部分が多い家では、力が特定部分に集中しやすく、地震時に弱点となるのが一般的です。そのため、シンプルな形状の家は安定性が高く、地震に対する安全性が優れていると考えられます。
3.耐震構造のメリット
耐震構造の主なメリットは、家の耐震性を高め、生活の安全性を確保し、長期間にわたって安心して使用できる点です。
他にも、耐震構造を取り入れるメリットは複数あります。代表的なものについて詳しく解説します。
3-1.制震・免震住宅に比べて費用を安く抑えられる
耐震構造の大きなメリットは、制震や免震構造に比べて費用を抑えられる点です。制震・免震構造は、地震の揺れを抑えるために特殊な技術を使用するため、施工費用が高くなる傾向があります。
一方、耐震構造は建物の強度を高めることに重点を置いており、比較的コストパフォーマンスが良いとされています。予算を抑えつつ地震に対する安全性を確保できるため、住宅購入者にとっては魅力的な選択肢となるでしょう。
3-2.地盤に関係なく耐震に備えらえる
耐震構造は、地盤の状態に大きく影響を受けることなく一定の効果を発揮できる点がメリットです。地盤が弱い場所でも、基礎部分や壁の設計を工夫すれば、地震の揺れに備えられます。
どのような地域に建てても耐震性を確保できるため、地盤の強さに関係なく安心して住めます。耐震構造は、地盤改良が難しい地域でも有効な選択肢の1つです。
3-3.住宅を自由に設計できる
耐震構造を採用した住宅は、デザインや設計の自由度が高いメリットがあります。特に、制震や免震構造は、専門的な設備を導入する必要があり、設計の自由度が制限される場合も少なくありません。
一方、耐震構造では基本的な強度を持たせるために構造を工夫することで、家の形やレイアウトに大きな制限がなく、個人の好みに合わせた設計が可能です。自由度の高い設計が可能であるため、住みやすさや家の見た目にも配慮できます。
3-4.強風にも備えられる
耐震構造は、地震だけでなく強風にも耐える性能を持っています。特に、耐震構造で強度が向上した壁や基礎部分は風圧にも強く、台風や強風時にも安定感を保ちやすいです。
これにより、地震や風害のリスクが共存する地域でも、安全性が確保されます。
4.耐震構造のデメリット
耐震構造は地震対策として優れた効果を持つ一方で、検討する際にはいくつかのデメリットを把握しておくことも大切です。耐震構造の特性ゆえに注意すべき点があり、居住者の安全や快適性に影響を及ぼす可能性があります。
以下では、耐震構造のデメリットについて詳しく解説します。
4-1.地震の揺れが直接伝わる
耐震構造の主なデメリットは、地震の揺れが建物に直接伝わる点です。耐震構造は建物自体の強度を向上して揺れに耐える仕組みのため、揺れそのものは軽減できません。特に大きな地震が発生した場合、揺れがそのまま室内に伝わり、家具の転倒や設備の破損が起きる可能性があります。
そのため、耐震構造の住宅では、家具の固定や転倒防止策を講じることが重要です。また、揺れによる心理的な不安感もデメリットの1つとして挙げられます。
4-2.定期的なメンテナンスが必要になる
耐震構造は、長期的な安全性を確保するために定期的なメンテナンスが欠かせません。特に、基礎部分や壁の状態が劣化すると、耐震性能が低下する可能性があります。例えば、ひび割れや劣化した部分を放置すると、次の地震に十分耐えられない場合があります。
定期点検や補修が必要な点は、コストや手間がかかるため、注意が必要です。しかし、適切なメンテナンスを行えば、耐震性能を長期間維持できます。
5.耐震構造に対する対策方法
耐震構造は、建物の揺れに耐える効果がある一方で、家具や物の落下などの二次災害への対策や、繰り返しの揺れに対する弱点があります。これらの課題を補うために注目されているのが、「耐震+制震」もしくは「耐震+免震」を組み合わせた対策です。
制震構造・免震構造は、揺れを吸収・減衰させる性能を持ち、耐震構造のデメリットをカバーします。組み合わせにより、地震による建物の損傷を最小限に抑えることが可能です。
「耐震+制震」「耐震+免震」を採用するメリットとしては、まず繰り返しの揺れによる建物の劣化を抑えられる点が挙げられます。また、揺れが緩和され、地震時の不安感を軽減できるため、安全性と快適性のバランスが向上します。
まとめ
耐震構造は、建物の強度を高めることで地震の揺れに耐える設計方法です。他の地震対策構造と比べて費用が抑えられ、地盤に関係なく効果を発揮するなどのメリットがあります。また、設計の自由度が高く、風害への耐性も備えている点が特徴です。
一方で、地震の揺れが直接建物に伝わるため、家具の転倒や設備の破損が発生しやすい点がデメリットとして挙げられます。そのため、家具の固定や防災対策を併せて行うのが重要です。耐震等級や建物の形状も安全性に大きく影響するため、地震に強い家づくりを目指す際はこれらの要素を十分考慮する必要があります。


