在来工法の耐震性は大丈夫?新耐震基準による耐震対策やメリットを解説

伝統的な木造建築技術を改良・発展させた在来工法は、間取りの自由度やリノベーションのしやすさなど多くのメリットがある工法です。一方で、阪神淡路大震災では在来工法で建てられた建物が大地震で被害を受けた例もあり、耐震性能を不安視する声も存在します。

この記事では、1981年に改正された建築基準法の新耐震基準と、2000年に改正された2000年基準において、在来工法の耐震性がどのように向上したか解説します。リフォームや耐震補強に際して押さえておくべきポイントやメリット・デメリットについても紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

 

1.在来工法とは

在来工法とは、日本で古くから受け継がれてきた木材建築の伝統工法を、改良し発展させた施工方法です。基礎に土台を据え、柱や梁の軸組で木材の骨格を作り、筋かいを加えて施工することで、水平方向の力に強い構造になっています。

構造がシンプルで間取りの自由度が高く、壁の位置を変えるなどの大規模なリノベーションを後から行える点が、在来工法のメリットです。柔軟な空間設計ができることから、現在も和風・洋風を問わず、多くの戸建てに広く採用されています。

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2.在来工法の耐震性は大丈夫?

在来工法は地震に弱く、安全性が低いというイメージがあります。特に、阪神淡路大震災では在来工法の住宅が多数倒壊したことも、在来工法は耐震性に問題がある、という不安の原因となりました。

04.木造建物は、断層からの距離が6-7km程度の範囲で大きな被害が出ており、古い構法で建てられた在来構法の建物に被害が発生。老朽による性能劣化が被害を拡大させた。
(中略)
02) 古い構法で建てられた在来構法の建物に被害が発生しており、蟻害、腐食など老朽による劣化が被害を拡大させた。
(中略)
05) ツーバイフォー、プレハブ工法の住宅の被害は少なかった。その原因については、これらの住宅が新しいためであるとの見方もあるが、むしろ厳格な設計基準があるためとされている。

引用:内閣府「阪神淡路大震災教訓情報資料集【03】建築物の被害」引用日2025/3/18

しかし、阪神淡路大震災で多くの在来工法住宅が倒壊した要因は、当時の不十分な耐震基準や、施工技術のばらつきにあります。設計基準が不適切だったことで柱や梁などの接合部に使われる金具が破断したり、老朽化が発生したりしたため、在来工法の住宅は大きな被害を受けました。

言い換えれば、適切な構造計算と施工が行われていれば、在来工法は高い耐震性能を発揮する工法です。現在行われている在来工法は、十分な耐震性能を確保されており、「在来工法は地震に弱い」という心配をする必要はありません。

 

3.2000年以降変化した在来工法の耐震性

阪神淡路大震災以後、建築基準法は繰り返し改正されました。現在は在来工法の家だけでなく、すべての新築住宅は、大地震が起きた際に十分な耐震性を持つように設計されています。

以下では、建築基準法改正前後における耐震基準の違いについて解説します。

 

3-1.建築基準法改正前の耐震性

建築基準法改正前の耐震基準には、以下の2つがあります。

1つは1981年5月31日までの建築確認に適用されていた「旧耐震基準」です。この基準では、主に震度5強程度の揺れでも倒壊を防ぎ、補修によって生活を継続できることが目標とされていました。

しかし、実際の大規模地震では震度6強や7といった大きな揺れが観測されることも少なくありません。

そのため、1981年6月1日に建築基準法が改正され、「新耐震基準」が定められました。新耐震基準では耐震等級1~3の3段階に耐震性能が分類され、耐震等級1で「数百年に1回起きる極めて大規模な地震でも建物が倒壊・崩壊しない」「震度5強程度の地震では軽微な損傷にとどまる」ことを目標としています。

 

3-2.建築基準法改正後の耐震性

1981年の新耐震基準が導入された後も、1995年の阪神淡路大震災で木造住宅の倒壊被害が目立ったことから、2000年6月1日に再度基準が強化されました。

現行の耐震基準を、一般に「2000年基準」や「新・新耐震基準」と呼びます。2000年基準では、新耐震基準の目標に加えて、木造住宅の耐震性能を強化するさまざまなルールが制定されました。

2016年の熊本地震でも、2000年基準を満たした住宅は、旧耐震基準や改正前の新耐震基準で建てられた住宅に比べて被害が少なかった事例が報告されています。2000年基準で建てられた在来工法住宅は、旧耐震基準で建てられた住宅よりも地震に強いと言えるでしょう。

 

4.新耐震基準による在来工法の耐震対策

2000年基準においては、阪神淡路大震災の反省を生かして、特に在来工法の住宅の耐震性能を高めるための厳格な設計基準が定められました。新しい基準により、厳格な設計基準の不足によって住宅が倒壊することを防いでいます。

以下では、新耐震基準における在来工法の耐震対策について解説します。

 

4-1.耐力壁の配置

2000年基準では、建物の平面を4つの区画に分割し、それぞれに一定量の耐力壁や筋かいを配置して、地震エネルギーを偏りなく受け止める「四分割法」が定められました。

壁が一部に偏ると、地震時に建物がねじれやすく、倒壊リスクを高める原因になりかねません。そのため、縦方向と横方向の両面で耐力壁を均等に配置し、必要壁量を満たすかどうかを壁量計算によって評価するように義務付けられています。新耐震基準では、建物の耐力壁の偏りを偏心率と呼び、偏心率を「0.3以下」に抑えるのが基本のルールです。

四分割法に基づいて耐力壁を設置することで、特に地震や台風による横方向の力に対して強い構造になり、在来工法でも十分な耐震性を確保できます。

 

4-2.地盤調査

弱い地盤に適切な補強や基礎工事を施さなければ、どれほど建物本体の耐震性を高めても十分な性能を発揮できません。そのため、2000年基準では、建物を支える基礎は地盤の耐力に応じて設計しなければならないルールが定められ、地盤調査が必須となりました。

土地が軟弱地盤であると判明した場合には、地盤改良工事が必要です。また、施工業者は引き渡しから10年間の瑕疵担保責任を負うため、調査不足で不同沈下が起きれば無償修復が求められます。

もし住宅を建て替える場合でも、上物を取り壊して新規に住宅を建てるのであれば、地盤調査が必要になります。また、2000年基準以前に建てられた既存住宅に耐震リフォームをする場合、地盤調査を行わなければカタログスペックほどの耐震性能を確保できないケースもあるため注意しましょう。

 

4-3.金物の種類

2000年基準では、構造材の柱頭・柱脚や筋かいといった接合部を、定められた性能を満たす金物でしっかり固定することが義務化されました。地震時には接合部に非常に大きな力が集中するため、旧基準では金物部分の破断が発生していました。新しい耐震基準では、地震の揺れに対して部材がバラバラにならず、一体となって動く構造を作れます。

また、床や壁に生じる力を安定して伝達するため、床の剛性や外壁を固定する金物の仕様も詳細に規定されました。外装材が地震時に脱落しないように、引っ掛け金物の強度基準も整備されています。

 

5.在来工法のメリット

在来工法は人気の高い施工方法で、2023年の林野庁の調査では、「住宅を建てたり買ったりする場合に選びたい住宅」の48.2%を在来工法が占めています。

出典:林野庁「森林と生活に関する世論調査(令和5年10月調査)概略版」

以下では、在来工法で家を建てるメリットを紹介します。

・間取りの自由度が高い

在来工法は、柱や壁の位置を工夫することで、開放的なリビングや畳スペースを設けるなど、和洋さまざまなデザインに対応できます。耐震性や耐久性に影響する部分以外は比較的自由にレイアウトを組み立てられるので、家族構成やライフスタイルの変化にあわせた空間づくりが可能です。

・大きな開口部をとれる

在来工法では、建物を「線」で支えるため、壁そのものが構造体となるツーバイフォー工法よりも大きな窓や掃き出し窓などを設置しやすい特徴があります。採光や通風を確保したいリビング、庭との一体感を出したいテラスなどを設計に取り入れられる点がメリットです。

・リノベーションが容易にできる

在来工法は柱と梁で家を支える仕組みのため、間仕切り壁や部屋数の変更が比較的容易で、増築や減築にも対応できます。子どもが独立後、部屋をつなげて広いリビングにする、あるいは親との同居に備えてバリアフリー化するなど、家族構成やライフステージに応じた大規模改修もスムーズにできます。

 

6.在来工法のデメリット

ただし、在来工法同様に木造建築の工法であるツーバイフォー工法と比較すると、在来工法には以下のようなデメリットがあります。

・工期が長くなりやすい

ツーバイフォー工法と比べて、在来工法は工期が長くなりやすい傾向があります。間取りや素材の自由度が高い分、設計から施工までの打ち合わせに時間がかかります。加えて、柱や梁を現場で組み立てるため、多くの工程を必要とし、家づくりに時間がかかる点はデメリットです。

・職人の技術力に左右される

規格化されたツーバイフォー工法に比べ、在来工法は施工を担う職人の技量によって仕上がりに差が生じやすい点に注意が必要です。経験豊富で信頼できる施工会社選びが重要になります。

 

7.在来工法の家をリノベーション・耐震補強する前に確認したいポイント

在来工法の家をリノベーション・耐震補強する前に、以下のような点を確認するのがおすすめです。

  • まずは耐震診断を受ける
  • 建物の構造や劣化状態を把握する
  • リノベーションの目的と優先度を明確にする
  • 自治体の補助制度を活用する

リノベーションや耐震補強を検討する際は、最初に「耐震診断」を受けましょう。耐震診断とは、地盤や基礎、柱・梁の劣化状況を専門家が確認し、住宅の耐震性を数値化して評価するものです。もし、耐震基準を満たしていない場合は耐震補強が必要になります。

また、在来工法は柱と梁で家を支える構造なので、柱脚・柱頭や筋かいの接合部が劣化していないかどうかは重要なチェックポイントです。

ただし、リノベーションでは、間取り変更や設備更新だけでなく、耐震補強も考慮すると工期・費用が増加します。耐震診断や補強工事に対して、自治体が補助金や減税などの制度を用意している場合があるので、実施前に市町村の窓口や専門家に相談し、利用できる制度があれば積極的に活用しましょう。

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まとめ

在来工法は長年にわたって日本の住まいを支え、現代の建築技術と組み合わせることで、十分な耐震性能を実現できる工法へと発展してきました。建築基準法の改正を重ねた結果、設計や施工のルールも厳格化され、2000年基準に基づいて建てられた在来工法の住宅は熊本自身でも大きな被害を受けずに済んでいます。

また、柱や梁で家を支える在来工法は、リノベーションの自由度が高い点も大きな強みです。一方で、施工に時間がかかりやすい点や、職人の技術力による仕上がりの差には注意が必要となります。リフォームや耐震補強を検討する際は、まず専門家による診断や地盤調査を行い、耐震補強に補助金を使えないか相談するのが大切です。